「彼」のもとに無理矢理連れてこられた少年は、札付きのワルでした。乱暴で誰の言うことも聞かない、もう誰の手にも負えないその少年を、噂を聞きつけた周囲の人が藁にもすがる思いで最後の手段として、彼のもとに連れてこられたのです。

「彼」のところに来ても、当然、少年は反抗的な態度は崩しませんでした。

「彼」は目が悪いために紫色しか見えず、紫色で統一された部屋で、しかも体が不自由なために車椅子で出迎えた彼は、その少年を前に実に冷静なままで居ました。

 

「彼」は催眠の大家でした。

催眠だけが武器です。

彼「君はどうせ無理矢理連れてこられたんだろう?」

少年「そうだ」

彼「もういい、帰れ」

少年は帰りかける。
彼に背を向けた時を見計らい、彼は再び声をかける。

彼「もし君が、皆が期待する人間になったら嬉しいかい?」

少年「ああ、嬉しいね」

…少年は二週間後、本当にそうなったそうです。
傍から見ると、僅か数回の会話のやりとり、いくら催眠の大家といっても、誘導とは思えないし、暗示がかけられたとも思えない。でも、彼はこの短いやり取りの間に実に巧みな催眠誘導、暗示を試みていたんです。

少年は二週間後、突然、人格が変わり、稀に見る好青年に変身したんだそうです。
本人も、周囲にいた人も、これが催眠の効果だとは思いませんでした。
「帰れ」と言われて帰ってきたようにしか見えなかったんです。
でも本当は、実に多くの、そして複雑で高度なことを「彼」はしていたのでした。

 

①無理矢理連れて来られて、催眠を拒否するであろう少年の心を汲み、彼はまず「無理矢理連れてこられたんだな」と理解と共感を示しました。

②次に、「帰れ」という意表を突く言葉で少年の虚をつきました。この虚こそが、軽い催眠状態への導きなのです。

③そして、「期待する人間になったら?」という未知の領域を問いかけて暗示作業を行ったんです。
「彼」は名をミルトン・エリクソンと言いました。

催眠、そして臨床の大家でしたが、一冊の著作も残さなかったそうです。
なぜあの人は好かれるのか?
なぜ私は好かれないのか?

なぜあの人はモノを売るのか?
なぜ私はモノが売れないのか?
…こういうのは短いやりとりの中に答えが詰まっているということですね。

 

上記の話の鍵は言語能力と臨場感にあります。

不良少年とミルトン・エリクソン、私たちと風水、これらは「臨場感」というキーワードで繋がっています。

少しずつ書いていきます^^